ジャンプ、銀さんがどうするのか非常に気になります。
すごく笑ったのですが(特にマダオが…!!)
書いてた小話はなんだかちょっと寂しい感じになってしまいました。
しかもやや沖→土風味。
以下、ジャンプのネタバレ含みますので、単行本派の方はご注意を!!
一応耳聡い人間の巣である真選組は、数日前からある話題で持ちきりだった。
「絶倫てあの男のためにあるみたいな言葉だよな」
千人斬りらしい、と飛躍した噂が語られていく。
「ああ、万事屋の。スゲェよな、昼ドラかよ」
「あーでもなんかみんな美人じゃん。ハーレムだろ」
「えー俺は嫌だな。なんか面倒そう」
「お前贅沢だって」
「あれ、そういや局長は」
「お妙さんが、って大泣きして、有給とって遠くに行ってるってよ」
そもそもこの話題が広まる発端は局長の近藤だった。
「あのキャバ嬢仕事辞めたんだっけ。あーあ」
「あー局長ついに壊れたか。ま、あれじゃね、またすぐ別の女に惚れて帰ってくるって」
がやがやと、隊士達が好き勝手に喋る。
みな何だかんだで若者らしくミーハーで、ゴシップもドラマも好きな職場環境だ。
「大したもんだねィ」
沖田が部屋に入ってくると、隊士達はさらに話を広げていく。
「あ、沖田隊長、お疲れ様です」
「凄いっすよねー万事屋の旦那」
興味なさそうに寝転がった沖田はくるりと愛用のアイマスクを指先で回して、
気の抜けた息をする。
「男なら責任取るってか。だったらウチのはどうオトシマエつけるつもりかねィ」
「なんか言いました。隊長」
「なんでもねぇよ」
「あんな形なら責任なんて取らなくていいですよ」
山崎が普段の優しそうな顔をかなぐり捨て、黒い笑顔で言う。
「責任とって結婚なんて流行んないです。ていうかうちの大事な……をなんであんなわけわからない連中と一つ屋根の下で暮らさせにゃならんのですか」
周囲がクエスチョンを浮かべた。
「副長?落ちましたよ」
ぱさりと書類が手から落ちたが、土方はぼんやりとしている。
慌てて隊士が拾い上げて渡そうとするが、
土方は不思議そうに相手をじっと見つめた。
「あ、あの…ふ、副長」
「悪ィ、ぼーっとしてた」
夢うつつの表情のまま土方は詫びて静かにそれを受け取る。
拍子に指先が触れ、どきりとした相手の動揺も気付かず、
土方はその指先をそっと掴んだ。
「わ、ふくちょ…!」
「…怪我してるぞ」
「あ、いえ、あの…」
「手当てはちゃんとな」
「は、はいッ!!」
そっと撫でられて顔を真っ赤にした隊士に構うことなく、土方はまたぼんやりとする。
書類を片付け、ふらふらと共有スペースに足を踏み入れた土方に、一瞬周囲が固まった。
沖田だけが、目線だけで常のように土方を追う。
「副長、お茶はいりましたよ」
山崎の呼びかけに土方は瞬きをして、
「ああ……」
心がどこかにいったまま、機械的に動く。
遠慮がちに隊士達が道をあけ、覚束無い足取りの土方はゆっくり座る。
「熱いから気をつけてください」
「………」
危ないな、と思った山崎が機転を利かせて、
手では無くテーブルに置く。
「此処におきますから」
「ん………」
ぼんやりとテーブルに頬杖をついた土方は視線の先にあった携帯の表面をそっと触った。
シルバーの光沢を放つ、ありふれた機器。
「副長、あの、」
「うん……」
携帯の持ち主はどぎまぎした表情のまま、土方の爪が表面をゆっくりなぞるのを見つめた。
ぞくぞくとした感覚は、持ち主と無機物がシンクロしているからか、と馬鹿げたことを考えたまま。
しばらく、土方の指先は、ただ銀色の無機物の上を滑った。
それから、少しの間土方はぼうっとしていたが。
「あ……」
テーブルの表面を見て、突然、不思議そうにつぶやく。
それから、指先がその表面を触り。
「なんで………」
濡れた指先を不思議そうに見た。
ぽたぽた、零れ落ちていく雫に、ただ驚いたように土方は瞬く。
音もなく、ただ静かにぽろぽろと涙を零し続けるだけの土方に、
周囲は凍りついた。
綺麗な涙が、ただ土方の澄んだ色の目から落下していく。
それを押し留めようともせず、土方はただ不思議そうに濡れて潤んだ目で周囲を見た。
息を飲む気配がそこかしこでして。
「アンタ、」
ふっと沖田は息を吐く。
瞬間、息も止まるほどに力強く抱き寄せられ、土方の身体は沖田の腕の中にいた。
悲鳴のような周囲の声を無視して、沖田はゆっくり、土方の顔を自分の胸に押し当てていく。
「…驚きやしたか」
わずかに、何かで震える声で沖田は言った。
「…馬鹿、しゃっくりじゃねーんだ。驚いて止まるかよ」
土方はぽろぽろと涙を零し続けながらも、普段どおりの口調で告げ、息を吐く。
ぎりりと、沖田が唇を噛み締めたのが山崎にはわかった。
土方は常と同じ心音で沖田の挙動を受け止め、瞬きするだけで何も変わらない。
ぎゅっと、沖田は土方を抱きしめたまま、つまらなげに零す。
「なんでィ。ちったぁ驚けってんだ、土方コノヤロー。弱ったアンタなんかさっぱりつまらねェ」
「弱る?」
不思議そうに土方は顔を上げて、濡れて光る目で沖田を見つめた。
正面からその視線を受け止めた沖田は緩く溜息を吐き、
指先で顎を持ち上げた。
じっと見つめてくる土方が、何をされるかわからない、というより、
何もするわけがないと信じきっている無防備さであることに沖田は舌打をした。
「とりあえず拭きなせェ」
勝手にポケットからチーフを出して土方の目元に押し当てる。
「は、ったく、それ俺のハンカチだろ」
ぽろぽろと涙をこぼしながら笑う土方に周囲が殆ど釘付けになったが、
ごしごしと擦られて、痛ェ!と怒鳴りあう頃にはなんとか、空気も溶けた。
「悪ィ、おどろかせて。眼科にでも行ってくるな」
ふっとすまなさそうに告げ、土方は静かに退出した。
「土方さん」
静かに後を追った山崎が呼び止めると、振り返った土方の顔はやはり、何の苦痛も浮かべては居ない。
ぽろぽろ、涙が落ちていくのがとまらないのか、指先で落下する涙を受け止めて。
土方が静かにただそうしているのが酷く綺麗だと不覚にも山崎は思った。
「お医者様呼びますか」
「……いや」
静かにそう答えた土方は、不思議そうに首を傾げた。
「何もねェのに涙が出てくるなんて…どうしちまったんだろうな、俺の身体は」
瞬きのたびに睫までが濡れて光る。
「哀しいって訴えてるんじゃないか……って言ったら貴方困りますよね」
凍った心の代わりに、せめて身体が。
山崎がそう言うと、土方はまた、不思議そうに瞬きをした。
「なにがだ」
本当にわかっていないのだろう、土方は素直に聞き返した。
「いえ……」
「どうせこの後は非番だ。少し眠ることにするな」
土方はそう言うと、大人しく自室に入った。
…泣きそうだな。
泣いているつもりの無い貴方の代わりに。
静かに山崎は、ひどく複雑な顔をした。
銀さんがあんな感じになって、ショックだった土方さん。
や、冷たいキレーなお顔で「最低だな」って吐き捨てるのもいいのですが…
(純情だし)
[21回]
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