虜囚

銀→←土気味、官僚×土方、さらに先週の本誌のネタバレ含みます。
ので、モブキャラが苦手な方、単行本派の方はご注意を！！


以下、たたみます。

「そんなに気になるなら出してあげようか」

かけられた言葉に、一瞬動きが停止する。
傍らで本を読んでいたはずの男は苦笑しながら俺の髪を穏やかに撫でた。

「君の……恋人。どうやら檻に放り込まれたそうじゃないか」

ぱちりと瞬きをしたが、目の前の現実は変化しなかった。
俺は否定も肯定も出来ずに、ただ目を見開いた。

万事屋が、身に覚えの無い罪で虜囚となってもう１０日が経つ。
その間、仕事以外の時間自分が何をしていたのか、正直あまり覚えていない。
仕事をしているときだけは総てを忘れられたが、こういうときに限って、捕り物も無い。
男が本を閉じた。
「私以外の男のことで、不安で仕方ない君を抱くのも、悪くないと思っていたんだけれど」
ぎしりと、体重を受け止めてベッドが軋む。
男は少し言葉を区切って、それからいつも通り不躾でない程度に柔らかく俺の唇に触れた。
輪郭がぼやける。
少しだけはっきりし始めた視界で、男は言う。
「最中に泣かれてしまっては私も悲しい。君に逢うのは久しぶりだ」

ね、と苦笑されても言葉が出ない。

心此処に在らず、を悟らせてしまうとは、ルール違反だ。
「……す、みません、俺、帰ります」
震える足を叱咤して起き上がろうとしたが、結局抱きすくめられる。

「…すまない。少し、嫌なことを言ったね」
男はそういうと俺の首筋に唇で触れた。
「ただの、嫉妬だよ。君が悪いんじゃない」
謝ろうと口を開きかけたが、顎を捉えられて上向かされたまま、
「ん………」
言葉を発する隙を与えられないまま、
舌を弄ばれて身体がぐずぐずと溶けていった。
 

内側で焼け付くような熱が凝っている。
熱い身体をくるりと反転させて宙を見た。
相変わらず豪奢な天井が虚無的に広がっている。

とりあえず便宜は図ってもらえるのだ。
刑務所の中は完全な資本主義で、
暴力と私刑とが入り乱れている。
中の様子は定期的に知らされる。
何処に居ても何をしていても目立つ男に死角は無かったようで、。
まさか、とは思うが、それでも。
何かの時には無理にでも助け出せる。そう思ってやっと息が出来た。
このくらいのことしか出来ない、いや。
ただ帰りを待っていることも出来ない自分に吐き気がした。

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遠巻きに、万事屋の帰りを待ちわびていた連中を眺めて、
煙草の煙を静かに吐き出した。

恋人などというものであったなら、もう少し楽に笑えた気がする。
分不相応な恋をしていると思う。
喜び勇んで抱きついている女達を眺めながら、
自分にはああやって万事屋の無事を大っぴらに喜ぶ権利が無いのだと思い知る。

月に数回、肌を合わせるだけの相手を、なんというかが、俺の語彙には無い。

冷たい風が吹いて、それが頬の赤さを誤魔化してくれないかと考えた。

 

夜の深いところで、一番最後に、万事屋は俺に向かって言う。
多分もう何十回といったであろう言葉を、律儀に。
「…ただいま。悪ィな、連絡出来なくて」
万事屋はそう言うと、何も言えない俺に向かって囁く。
「……怒ってる？」
俺は首を振った。
「いい……テメェが無事なら………」
それ以外、何を望むというのか。

万事屋は笑って、
「ホテル行かない？禁欲生活長くて死にそう」
そうあっけらかんとした口調で言った。

胸の奥の奥の方がわけもなく、ぐしゃりと嫌な音を立てている。
本当は、もっと、ゆっくり色々な話がしたかった。
無事だと確かめたかった。
「お前がいて、シャバに戻ってきたって感じするわ。ほら、早く確かめさせて」
そのゆるい笑顔に。
俺は、頷くしかない。

お前が無事なら、ほかに何もいらない。
それ以外、何を望めというのか。

何を望もうというのか。

俺は出来る限り自然に見えるように笑って、

「バァか」

そう言うしか、なかったり、する。





 

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銀さんは美人の恋人にメロメロです。
つまり両片思い気味。
土方さんの内心が読めたら銀さんはびっくりすると思う。