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成/人/の日には間に合わなかったですが、記念の小話。
2009年7月にブログに書いたテーラー小話1,2の番外です。
サイトの小説部屋にもまとめましたので、1、2、番外と一気に読みたい方はそちらをどうぞ。


 Happy New Coming of Age Start!

 

金時が俺に突然電話してきた。
「スーツ作ってやるよ」

は?

俺はバイト空けの寝惚けた頭と耳に
相変わらず能天気で人の都合を無視した金髪頭の声を聞かされて混乱した。
作るって?裁縫?まさかアイツが縫うのか?
と馬鹿な考えをひとしきりした後、テーラーに行くぞといわれてまた頭に疑問符が浮かんだ。

何となく、うっすらとは知ってる。
でもそれはもっとオッサンの、それも滅茶苦茶金を持ってるオッサンの行く場所じゃなかったか。
だけど結局俺はそれから3時間後には金時に拉致られて
相変わらず馬鹿みてェに派手なスポーツカーの助手席に座らされていた。

「どこ行くんだよ…」
「だからテーラーだっつの。お前、もうすぐ成人式だろ?」
「別に行かなくても…」
「行っとけよ。行かずに何となく後悔するよりマシだぜ?」
軽い調子で言われて少し黙る。
金時は多分そんなもの行っていないはずだ。
俺くらいの頃にはもう働いていたし、色々な意味で俺達はギリギリだった。
そんな感傷を物ともせず(というか最初から俺の思考はスルーされている)
金時は何故かひどくご機嫌で俺はその謎のテンションに付き合わされてやや引き気味。
ステレオからはジャズが流れて、意外にも金時の音楽の趣味は悪くないんだな…
と関係ないことを考えた。
こうなったら人のいうことは聞かない。
昔からそうだ。
まぁ、入学式のときに着た、サイズのきつくなった既製品のスーツしか持ってない俺には
この気遣いは正直ありがたかった。

車をパーキングに入れて少し歩くと目的の場所に着く。
格調高い、という使い慣れない単語がポーンと頭に飛び込んでくるような店構えの、
しかも一等地にあるその『テーラー』に俺は正直気後れする。
入るのに躊躇う俺の肩を遠慮なく押して、
金時が笑いながら出迎えた男に挨拶する。

「どーも」

地味な、うっすーい存在感の男がにこりと笑って
「いらっしゃいませ、坂田様。お待ちしておりました」
そう挨拶した。でもぺこぺこしてる感じはしない。
ブランドもん売ってる店の店員みてぇな、
丁寧なくせに、偉そうな感じ、っていうのが近いか。

「土方いる?」
「はい、ただいま呼んで参りま…」
「いらっしゃいませ」
背後から低い声がして、その瞬間、俺は固まった。
真っ白なシャツとギャルソンエプロンをした、
ど迫力の美形が俺を射抜くみたいに見据えて、しらっと挨拶をしたから。
店に飾られた白い花の陰から出てきたその美人は作り物みたいな整った顔で俺をじっと見ている。
手足が長くて、すらっとした身体に白と黒がよく似合う。
花と一緒でこんだけ違和感が無い男も珍しいんじゃないだろうか。
暫くぼーっと見蕩れていると金時が俺の肩を叩く。
「ほら、採寸してもらえ」
「こちらに」
愛想笑いもしないその美人の後を俺は慌てて追った。

「土方と申します」
「あ、坂田…銀時、です」
軽い挨拶の後、土方さんはすっと表情を消す。
「では、少し採寸させていただきますね」
細い、酷く繊細な指先でやわらかく、でもきちっと測られて、
俺は自分が解剖されているみたいなおかしな気分になる。
間近にある顔はやっぱり花みたいに綺麗で、
目はどこまでも澄んでいた。
それで、凄く真剣。
ぴりっとした空気の中で計測を終えると、
土方さんはほうっと何気なく、色っぽい感じで息を吐いた。
「何か、色や型にご希望はありますか」
「え、っと…突然連れてこられたもんで…」
緊張気味に言うと土方さんは、ふっと優しく笑って俺にいろんな種類の生地を見せてくれた。
もっと怖いかと思っていたのに、思ったよりも優しい感じなのに驚く。
俺がコドモだからだろうか。
でも、この人だって若い、と思う。
俺の周りには居ない人種、綺麗過ぎて正直歳が分からないけど。
「坂田様は、そうですね、体つきがしっかりしていますから……」
俺は言われるままにいろんな種類の生地をあてがわれ、
その度にむずがゆいような面映い?っていうのか、なんかそんな気持ちになった。


「お気をつけて」

しっとりした声で見送られて、俺はなんだか落ち着かない。
横で金時がにまにましているのにも気づかなかったくらいだ。

車に乗り込むと金時が俺に言う。
「惚れたろ」
「はっ、え、ハァ?!」
にや~といやらしい笑いをした金時は俺を見て図星だな、と呟く。
「や、だってあの人男だし…」
ふうん、と如何にもからかうような顔をされて腹が立つ。
「そ、そういう金時こそ、デレデレしちまって、あれだ、店の女に見られたらヤバイんじゃねーの」
怒られてもめげずに、痩せちゃった?などと言いながら腰を抱いたり肩を触ったりとやりたい放題の金時にやや呆れた。
けして、羨ましい、なんて思ってない…はず。
あ、でもセクハラを働くたびに土方さんの傍に居る地味男の笑顔が張り付いたみたいになってて、
ちょっとコイツやばいんじゃ…と思ったのを付け足しとこう。
ああいうタイプって、キレると怖いんだよな。
「だって可愛いんだもん」
反省の色なし。大体いい大人がもんとかどうよ、と思わないでもなかったが、
エンジン音に慌ててシートベルトを締めた。
あの金時が男にあんな柔らかい声を出すなんて知らなかった。
土方さんは困ったように金時のボディタッチに眉を寄せていたけど、
それは嫌がってるというよりは困惑している、
という感じで、人に触られるのに慣れてないんじゃないかなとちょっと思った。
金時にそれとなく聞くと、職人気質っていうのかな、あの子色々天然なんだよね、
とある意味予想通りの返事。
そこがまたたまらなく可愛いんだよねぇ、あのルックスで物慣れてない感じがさ、
色々教えてあげたいし俺の色に染めたいし、ふふふふふ、
という延々続くロクでもないセリフは聞き流して。
俺はあと何回あの、心臓に悪いひとと狭い空間に二人きりになるんだろうと考えた。


その後、細かな調整のたびに、あ、キスが出来そう、と考えて、
馬鹿馬鹿俺何考えてんだよ!
と一人で忙しくする俺には当たり前ながら気づかず、
土方さんは淡々と仕事をしていき。
目出度くスーツは完成した。

親しき仲にもってことで一応金時にちゃんと礼を言って、
値段は多分、俺のバイト代数か月分、とかだろうから、
出世払いってことでとも金時に告げた。
俺が言い出したんだから、と言ったが結局金時は笑って
「じゃあ、将来は期待してるぜ」
そう言った。

土方さんは俺をまじまじと見て
「よくお似合いです」
金時と話すときは乱暴なのに、俺にはそう優しく言った。
俺が赤くなると少し不思議そうにした後、
「成人式に間に合って良かった…」
静かに呟く。
「あ、はい…おかげさまで。そういえば今度、この近くでやるんですよ、式」
「ああ、…ホール」
「そう、それです。ハガキが来てたんで」
土方さんはもう一度俺を見て、今までとは違う種類の笑みを浮かべた。
なんだか、小悪魔的な笑い方に俺は落ち着かなかった。

 

 

突如、ホール前に真っ赤なスポーツカーが止まって、
その迫力にざわざわする。
それから、もっと凄いざわめき。
派手な音を立ててドアが開いて、降り立ったのは土方さんだった。
タイトなスーツに真っ白な肌がよく映えて、
風で舞い上がった髪が生き物みたいに綺麗だった。
「あ、…その……」
俺はどぎまぎして言葉を探したけど、
それより早くつかつかと長い足で土方さんが俺の目の前に進む。
ああ、やっぱ、この人、とんでもない美形。
「よく似合ってる」
にやりと笑うと土方さんは俺にそう言った。
店の外では敬語じゃないのか。
唇を少し上げて、酷く魅惑的な微笑みで俺の心とか、頭の中とかを全部、
ぐるぐるにシェイクして平然としている。
「だが、」
土方さんがつい、と至近距離まで迫って俺を追い詰める。
睫が長くて肌がきめ細かくて、少しの煙草の匂いがすごく、大人な感じで。
「タイが曲がってる」
「えっ……」
見立ててくれた、そう、レジメンタルタイ、にするりと指をかけ、
綺麗に整えて満足そうに。
「これで、完璧だ。お前が一番、いい男だ」
ふっともう一度笑うと土方さんはひらりと身を翻す。
「ちょ、待って!!!」
あの人誰、超格好良い、なになに坂田君の知り合い、誰だよすげぇ、とかとかそんなのはいい。
土方さんはくるっと綺麗に振り返って不思議そうに俺を見た。
バックに花が飛んでそうにきらきら。
「あの、その……」
ああ、もう俺頑張れ。
頑張れって!!!
「今夜、一緒に食事に行きませんか!!!!」
叫ぶような俺の言葉と、
何か凄まじい叫び声とかもどうでもいいくらい俺はテンパった。
つまんねぇ二次会も飲み会も知るか!!!!
「………ふつう、こういう催しの後は友人と飲むものなんじゃないのか」
ちら、と俺の背後でぎゃあぎゃあ騒ぐ塊を見る。
「や、いつも飲んでるから!!顔見知りばっかだから!!!」
俺の必死の形相に、土方さんが考えるように首をかしげ、言う。
「別にいいぜ」
「え、あ、ほんと……ですか」
「何時に終わる?迎えに来てやる」
俺は混乱しながら時間を告げた。
「じゃあ、いいワインが飲める店に連れてってやる。酒はもう飲めるな?」
勿論、誕生日は過ぎている。
「う、うん!!」
土方さんは俺を見てもう一度だけ笑ってくれた。

「成人おめでとう」

その瞬間、俺の頬はたぶん今まで生きてきた中で一番真っ赤だった。
誰に言われるより、嬉しいと思って。

大人になるってこういうことなのか。
今までのままごとじゃなく。
これが、多分、本物の恋というものなんだと気づいてしまった。


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