少し早いですが、明日の予定がどうなるか不明なので。
2月3日にちなんだ小話。小説部屋の2月3日の小話シリーズの4段。
少しずつ繋がっています。
アヤカシ設定です。
今日は雪がすごくて会社に行けないかと思いました…
実際渋滞が凄く、
20分の距離に1時間かかりました。
間に合ってよかった…
明日は気温が氷点下だそうで…
風邪やらなにやら、皆様くれぐれもお気をつけください。
ぽとり、と土方の膝の上に子鬼が落ちてきた。
その少し後、
「ここにいたのかい土方君」
声と同時に障子が開かれ、高官の一人がわらう。
喧騒から逃れるようにして身体を休めていた土方はその声にゆっくりと視線をあげた。
昼から源泉かけながしとうたう湯に浸かり、緩やかな着物に着替えた後は夜の更けるまで酒宴、
という実に享楽的な宴だったが土方にとっては気の休まるものでもない。
宴席から抜け出して休んでいた土方を探していたのだろう、
男はするりと部屋に入って、後ろ手に障子を閉めた。
ああ、膝の上の感触が消えてしまった、
と土方の長い睫が瞬くのを男が目を細めてみやる。
視線を感じて土方がやっと男に思考を移す。
座っている所為で土方の視線はどうしても上目遣いになってしまうのが男には良く作用したようだ。
男はそのまま土方の隣に腰を下ろすと
「君は酒に弱かったようだね、大丈夫かい、ん?」
優しげな声とは裏腹に、獲物を前にした狡猾な蛇のような視線で土方の色づいた肌
をなぞる。
ほうっと熱く、あるいは甘い溜息を吐くことで、
土方はけだるく返事をした。
執拗に飲まされたことは事実だ。
今日は土方の代わりに酒を飲み場を立てる近藤が居ない。
良い酒は軽い飲み口でするすると喉を通る代わりに酔いも深い。
土方の深い闇色の目が水を湛えて潤んで今にも零れ落ちそうにたゆたっているのは
その酒精の所為。
男の指先がそろりと土方の足を撫で、裾を割り始める。
土方はその様をまるで他人事のように眺めながら相変わらず足を投げ出したままだ。
子鬼はどこに行ったのだろう。
「酔っているのだね」
艶やかな黒髪をかきわけ、露にした白い貝殻のような耳元で男は囁く。
常ならば土方は男の前で礼を失するような真似はしない。
だが今日の土方は酔っている。
まるで自分とは無関係とでもいうように足を投げ出して、
答えない土方に男は気を悪くすることなく、その肌の滑らかな感触を味わうように、
ことさらゆっくりと撫でていく。
愛撫のつもりなのだろうか、
と土方は他人事のように考えた。
ふと、声が土方の耳に届く。
きちちちち、と確かに声がした。
座敷の外で女の悲鳴が聴こえ、男は動きを止めた。
数瞬後バタバタと凄まじい足音がしたかと思えば、
「火が出たようです、早くお逃げになってください!!」
そう店の人間が知らせにくる。
やましいことをしていたと思っているのか、
あるいは火の気のせいか突然の事態に流石に男はうろたえる。
男の醜態に土方は美しい眉を顰め、
即座に起き上がると声のするほうへ走り出した。
結局、火消しが呼ばれる騒ぎとなり、
不審火として幕僚に対して遠慮がちに簡単な聴取が行われた後、
土方達はあっさりと解放された。
責任者の送りますか、という申し出に首を振り、
屯所からの迎えの車に乗った。
土方は帰りの車にちゃんと連れてきた、
膝の上の子鬼をそっと撫でる。
きちち、きちち、と嬉しげに鳴く子鬼は、
運転席で原田が、
「災難でしたね、副長」
と言うのにまた、きちちちち、と鳴き、
土方の顔を見上げた。
「災難、ねェ……」
土方は呟くと膝の上の子鬼を撫でた。
「副長のいる料亭で不審火なんて、随分大胆な奴だ」
原田の喋るがままにさせ、窓の外を見た土方は何となく、
先刻無遠慮な男に撫でられた足に、まだその感触がある気がして爪を立てた。
ぐしゃりと着物の裾が捲れあがった。
と、着物の裾を子鬼が引っ張っているのに気付いて視線を落とす。
子鬼が白い足が裾から覗かぬよう、くいくいと引いて隠そうとしているのだと気付き、
土方は手を離す。
子鬼は先ほど土方が爪を立てた箇所をなでなでと小さな手でなで、
きち、きちち、と鳴く。
土方は代わりに子鬼の頭を撫でた。
「今日は……みな屯所にいると思ったんだが、わざわざ逢いにきてくれたのか」
土方は静かに呟くと桜色の唇から細く息を吐いた。
「え、そりゃ、勿論お迎えにあがりますよ、副長」
原田がきょとんとしたように言う。
「ああ……いや、気にしないでくれ」
子鬼が土方を見上げ、頬を染めてきちち、きちち、と鳴いた。
[31回]
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