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こわいはなし、です。
独白。
時々書きたくなります。

『こわいはなし』




夜にね、音がするんですよ。
かりかりかり、きしきしきしって。
何の音だろうって思ってたんですけど。
それが段々ひどくなってきて、
俺、さすがにまずいなって思って起きて様子見に行ったんです。
そおっと歩いて。
廊下を出ると奥の部屋だけ灯りがともってて。
木の床を踏みしめてくんだけど、
夜だから音がすごく響くんです。
でもそれよりも酷い音がしてるんです、その部屋から。
怪談でありますよね、墓暴いて骨食べるやつ。
かりかりかり、とか骨齧ってる音に似てません?
え、齧ったことあるのかって。
いやだなぁ、雰囲気ですよ雰囲気。
で、部屋の前まできたら、急に怖くなっちゃって。
で、障子をそっとずらそうとしたら、
足に力が入ってたんですかね、みしみしって、音がしちゃって。
あ、見つかったかなって思ったんですけど。
隙間から覗いたけど、中のお二人はそんなことかまわないみたいにずっと部屋中に、
ね、わかるでしょ。
押し殺したあえぎ声が響いててね、
ああ、濡れ場に出くわしちゃったなぁって。
足元に、俺がね、この世で一番綺麗だなって思ってるひとの、
制服っていうか、まぁ仕事着が散らばってて、
あ、じゃああの人今服着てないんだ、
って思ったらぞくぞくしてきちゃって。
馬鹿ですよね、閉めて帰れば良いのに、中入っちゃって。
真っ暗なんですけど、俺夜目が利くから。
で、ゆっくり近づいてったら、床の上に折り重なるみたいに、
その人が男に組み敷かれてる。
苦しそうに、後ろ手で床を引っかいてて。
かりかりいう音はそれだったんだ、爪立ちゃえば良いのにって。
あの爪なら引っかかれたいし、あの人になら肩とか齧られたい。
俺が馬鹿なこと考えてる間にも声がどんどん温度を上げてきて。
甘くこもって殺しきれてない声がすごく淫靡で。
その人、強くて綺麗でプライドが高くて、
何されたって絶対泣く人じゃないのに、目がもう潤みきってて。
暗い中でもその人の顔と身体だけはっきり見えるんです。
真っ白で、すごく綺麗。
艶々の黒髪が散らばってて、
男の肩越しにね、濡れた目で俺を見上げて、
紅い唇がね、はくはく動いて。
ああもう俺だめだ、って眩暈がして。

で、男がね、組み敷いてる男がですよ、
くるって振り返るんです、俺を。

それ、ああ、もうわかるでしょう。

俺の顔だったんですよ。

ふふ、ここでおしまい。
え、続きが聞きたいって?
しょうがないなぁ。
続きなんてありませんよ。
夢なんですから。

え、現実にすれば良いって?
簡単に言ってくださいますね。
ま、あの人のこと知らないんだから仕方ないか。
俺もこんな話してる時点でだめですよね。
誰かに聞いてほしいなんて思っちゃって。
でも知ってる人じゃだめだし、
その人はね、すごく綺麗で、特別な地位のひとなんです。
俺なんかがどうこうしていい人じゃないんです。
でも昔から言うじゃないですか、
二重を歩くもの。
自分と同じ顔をしたものを見たら・・・って。
でも俺は無事でした。
でもね。
「この話を聞いてね、生きてた人っていないんですよ」

なぜだかわかります?
怪談は信じないって?
はは、そんなんじゃないですよ。



 

「俺ね、これから殺す人にしかこの話しないんです」

山崎はにっこり笑った。


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