テーラー２

昨日の続きです。
以下からどうぞ。



 

二度目の来店でディティールを決定して、最終的なデザインを決定する。
「お客様は身体がしっかりしていらっしゃいますから…」
土方君は無理矢理作ったような笑みで白々しく俺に相対する。
「敬語やめていいよ。苦手そーだし」
言うと土方君はにやっと笑う。
地味男ははらはらした表情で俺らを見やっていたけど、
喧嘩好きなのか土方君はむしろ嬉々として俺に対峙する。
「ならありがたくそうさせてもらうぜ」
あ、美人にこの口調って何かイイね。
「アンタは身体つきがしっかりしてるから、デザインを日本人向けに改良する必要はねぇな」
「それはどーも」
「いい身体つきしてるじゃねぇか。ホストってのはみんなこんな立派か」
少し羨ましそうに言うのが可愛い。
この子だって、腰は細いし手足は華奢だけど、背は高くて体格も悪くないのに。

「ホストクラブについて調べた」
どうだ、とでも言いたげな土方君に笑いが込み上げる。
自分でけしかけたくせになんだか悪い大人の気分。
こんな何も知らない子に夜の知識を与えちゃっていいんだろーか。
つらつら考えていると土方君は俺を見つめる。
「アンタの正装であると同時に戦闘服なんだな」
土方は確認するみたいに呟くと
「不勉強で悪かった。とびきり見栄えのする品を作らせてもらう」
凛とした表情でそう俺に告げる。
その目は職人としての自信と仕事への情熱に溢れた綺麗なもんだった。

目が綺麗だと初めて会った瞬間思ったけど、今日のはまた一段と綺麗だ。

 

３度目の来店で仮縫いをした。
土方に言われたとおり、店でよく着るシャツと革靴を履いて。
悪くはなかった。
でもこのスーツの真価はこんなものじゃなかった。

４度目、来店して受け取る。
試着をしてここで終了。
土方君は俺を見てストレートに褒めてくれた。
「良く似合うな」
その笑顔にウソが一つも無くて、眼がやっぱりきらきらしている。
でもこの子はスーツを作りに来る人間には同じように振る舞ってるだけなんだろうね。
俺だけがメロメロとかどうよ。
「じゃあ、お礼に食事でもどうですか」
にっこり笑うと土方君はちょっと目を見開く。
「料金は十分に受け取ってる。チップみたいなものはウチではしていないから気にしないでくれ」
あ、そう出ちゃう？
「サイズ直しも修理もしてるから、気軽に来るといい」
ああ、物凄く名残惜しい。
デートに誘う隙も与えない箱入りテーラーだ。

多忙な女社長は結局一回目と二回目に一緒に来ただけで、
あとは俺の好きにさせてくれた。
出来上がったら見せてね、と魅惑的な肉食獣の笑顔とセットで。
喰われそうだなぁ。

しばらくして店に来た女社長は出来上がったスーツを着た俺を散々褒めて満足そうに微笑んだ。
領収書は彼女の所だから結局これがいくらするのかは知らない。
ただ普通のオーダーでも20万はする。
ボタンは特注、生地も取り寄せ、しかもあの美人テーラーの作る服ってことで価格はさらに上乗せされるらしいから俺は丁寧に礼を言っておく。
「ねぇ金ちゃん、その服家でも着た？」
「ああ、うん。でも、店のライトの中で見るのが一番綺麗なんだよこのスーツ」
本当にそうだった。
土方君の店と自宅で着てみたときはきれいで高そうとしか思わなかったこのスーツが、
店のライトの下では特別な輝きを放った。
女社長は満足げに笑む。
「それは凄いわ。やっぱりあの子は天才ね」
彼女の赤い唇が弧を描いた。
「外の世界で似合う服なんて、逢うときはお店がほとんどの私と金ちゃんにはいらないものねェ」
女社長は底冷えのする目で俺を見て笑った。

女が怖いと思う瞬間はどこにでも転がっている。

オーナーの神楽が珍しく店に顔を見せたので新八と一緒に乾杯する。
神楽はスーツを褒めた後、女社長と俺の話に笑う。
「金ちゃん、女にいつか刺されるかもしれないネ」
「ちょ、縁起でもないこと言わないでよ神楽ちゃん」
新八が慌てるが神楽はにやにや笑う。
「でも、そのテーラーは大したものネ。ライトの下が金ちゃんの舞台、そこよく分かってる」
まぁ、そうだね。
「あー何か金さんサミシー」
神楽がまた笑った。
「日の光の下で着るスーツを頼もうかな…」
あの子をエスコートするならそれは日の光の下が相応しいだろうから。
そうしたら、あの子にまた逢える。