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風の強い日だった。

窓際から吹き抜ける風にあらゆるものが飛ばされていくような日。

開け放たれた窓からの風に、ベッドサイドの花が散り、白いシーツが舞い上がる。置き去りの本がページを捲られ続け。

窓辺で舞い上がったシルクのカーテンの前に土方が立っている。
天使の羽か花嫁のベールを纏っているように荘厳に。
純白の檻の中で優雅ささえ感じさせる光景。
振り向かない背は、羽を仕舞いきれないからだろうか。

「土方殿」
かけた声に音もなく振り向いた少年は。
凄まじい風で舞い上がった白すぎるリネンが身体に巻きついて、まるで天からの美しい使者。
なぜ自分はこの美しい光景を壊してしまったのだろうかと瞬きする間に考えた。

少年が窓を閉めた。
舞い上がったシーツが床に落ちる。

天使が羽根を捨てたように。

「おかえりなさい」

にっこりとわらった少年は、人間の殻をこのときにはもう捨てていたのだと思う。
羽根と一緒に。
天使でも人間でも無いのならば、この美しい生き物はなんなのだろう。益体も無いことをいつも考える。

「晋助は」
「お仕事」
目を見張るが少年は微笑んだ。
「俺がお願いした。だってもうずっとおやすみしてくれたのに、じゅうぶんだよ」
やわらかい発音で言葉を告げながら少年はすこしずつ、笑みを消す。

「高杉を好きなのは嘘じゃないけど、欲しいものがあるから」
「晋助は、主を愛しているでござるよ」
「わかってる。でも、次に行かないとね。ずうっと痛みを見続けて、今度ので思い切り酷く体感して、あとは」
その腕をふるうだけだとは言わなかった。
少年はそういう生き物ではない。
口にせずとも。

「もう、お遊びはおしまい」
「……土方殿」

「強くなりたいな」
少年は笑った。

「晋助がなんと言うか…」
「自分の身を自分で護れるようになりたいってお願いしたら良いって言ってくれた」

……そうか。
なら拙者が口を挟むことではない。
愚かな男はアリスを違うものにしてしまうことに気付いているのか。
ああ、晋助に見えぬものが見えるのが口惜しい。

「ね、おねがい」

深く溜息を吐いた後、
「……仰せのままに」
女王に傅くように恭しく、河上万斉はその手をとった。
アリスはハートの女王になっても、やはりアリスのように可憐だ。




さあ、眼が覚めてからみる悪夢の続きといこうじゃないか。
本当の狂気は、白く清潔で美しいのだから。

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