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せっかくなので小話をひとつ。
神楽ちゃんと土方さんです。
このふたり、あまり見ない組み合わせですが大好きです!



 『ありふれない日常』



先に行って待ってて、といわれて向かった万事屋。
玄関に足を踏み入れてすぐに、自分以外の人間の気配がすることに気付き。

応接間に入ればすぐに見慣れた相手の、見慣れない姿。
ソファの上でぎゅっとまるまって(苦しくないのだろうか)
横たわった小さなピンク色の頭が、こてんと動いた。
そっと伺うが眠りは深いようだ。
「風邪、ひくぞ……」
遠慮がちにかけた声は伝わらない。


見渡すが勿論毛布のようなものは無い。
黙って帰るのも気が引けた。

寝室ならあるのだろうが、家主の不在に勝手に寝室に入るのは躊躇われた。

仕方ねぇ…他に無いんだ。
起きたら嫌がるだろうが、赦せ、と自棄気味になりながら上着を脱ぐと背にかけてやる。
まるまった小さな身体は半分も覆い隠せてしまう。
ちっせぇな……ガキだもんな、そういや。

ふと、もぞもぞと動き出した塊に、起きるのか?と思うが口をもにょもにょと動かして、その塊は寝ぼけた顔のまま、ソファに半身を起こし。

「ぅわ…!」
手加減なしの馬鹿力で腕を引かれてソファに慌てて腰を下ろす。
そのまま腹の上に乗り上げた小さな少女は、こてんと。
糸が切れたように眠った。
眠ってしまった。

…マジかよ。

しかも犬か何かと間違えているのだろうか、すりすりと顔を腹部に押し付けたまま、ころんと寝返りを打ち、膝の上でとまった。
所謂膝枕に近い姿に硬直するが起きる気配は無い。

なんつー寝汚さだよ。
雇い主にそっくりだな、おい。

とりあえず、ずり落ちた上着をかけなおしてやる。

万事屋、馬鹿、早く帰って来い。
早く、何やってやがる、馬鹿野郎。
いつも暇なくせになんでこんなときに家に居ないんだよ、とひとしきり悪態を吐き、深い溜息を吐いた。
というか、こんな固い膝じゃ嫌じゃねェのかよ…
そっと、手を差し込んで起こさないように小さな頭を動かそうとする、と。


「…マミー………」
ぽつりと、零れた言葉を拾ってしまったのは迂闊だった、と言える。
マミー、マム、つまりは母親。
理解した瞬間に。
少女からぽろりと零れ落ちたのは言葉ではなく、涙。

本当にひとしずくだけ。
ぽろりと零れ落ちた涙は、布地に吸い込まれて消えた。
この気丈で生意気な娘の矜持が押し隠しているもの、なのだろうか。

きゅっと口元に握り締められた小さな手のひら。
まるで幼子のようにまるくなった姿に。
思わず、そっと。
髪を撫でてしまう。
総悟にもこんくらいの頃があったんだよなァ…
ガキの頃から天才剣士で、可愛くないことばかり言うガキだったが、
寝ぼけて引っ付かれたことは何度かあった。
弱弱しい声で姉の名前を呼ぶこともあった。
そのときばかりは総悟も歳相応のガキで、姉に全力で甘えられない意地のようなものがあるのだろうか、とぼんやりと思ったものだった。
撫でる手に心地良さそうに笑って、もぞもぞと身動きしながら寝心地の良い場所を探す動きは変わらない。
起きる前にそっと蒲団に寝かしつけ、知らないふりをするのも常だった。
俺に間違っても甘えたくなんかなかっただろうしな…
二言目には殺してやる、の総悟ほどではないにせよ、この娘も俺なんぞに弱みなど見せたくはないだろう。
今起きられたらこの娘のプライドを傷つけてしまうかもしれない。

どうすりゃいいんだよ…
早く帰って来い、万事屋。


ぐるぐるとパニックになりながら、困り果てて呟く。

 


 

 

 

「おーい、みんなの銀ちゃんが帰ったよ~って…」
予想しなかった人物にぎろりと涙目でにらまれて銀時は固まる。

「なにやってんの…」
「ぅ、うるせー……俺にもわかんねぇよ…」
小声でそう言い返すと、困ったように膝の上の神楽を見下ろす。
上着をかけてやったせいか、ベスト姿の恋人は何故か膝に神楽を乗せている。
しっかりと片手にベストの裾を掴まれて拘束された状態で、殆ど泣きそうに睨んでくる。

「毛布、持って来い」
「あ、ああ、うん…」
とりあえず毛布を持ってくると、上着の上からかけてやる。
体温が移っている以上、剥ぎ取れば目覚めてしまうかもしれない。

「どしてこんなことに?」
「寝てたから、風邪引くかと思ってよ……」
言葉の足りない恋人の言いたいことを何となく察し、銀時は優しく笑ってやる。

「優しいね~」
「るせー……」
力なく言い返すと困り果てた顔のまま、羞恥で死にそうな顔で俯く。
ああ、もう可愛いな!
ちゅうしちゃおっかな、などと考えている銀時の横で、慣れない接触に緊張しきりの土方は気付かない。
膝の上の塊の頬もまた、負けず劣らず紅く染まっていることを。

結局足が痺れる寸前で、掴んでいた手を離した神楽の身体を銀時が横抱きにし、和室の蒲団に寝かせた。
10分後には何事も無かったような顔で起きてきた神楽は、
「よく寝たネ…遊びに行って来るヨ」
そう言うとパタパタと出て行く。


「起きてすぐ出かけるなんて、ガキってのは元気なもんだな…」
見送る土方はそれだけ言うと胸をなでおろした。

良かった…気付かれていねェ。
よりによって自分と誰かを間違えて引っ付くなど、あのプライドの高そうな娘には我慢なら無いだろう。
大体、総悟のガキの頃を思い出してしんみりしてしまった自分が。

 

 

街中でぶつかりそうになった身体を慌てて受け止めて新八は息を吐く。
「あ、ぶない!神楽ちゃん、どうしたのそんな慌てて」
「なんでも、ないネ……」
普段なら息一つ乱さないであろう神楽が珍しく息を荒げている。
そんなに走ったのかな?と首を傾げた新八が言い募る。
「あれ、神楽ちゃんどうしたの?何か顔が赤いよ?」
熱でもある?と心配そうに告げた新八に神楽は首を振った。
「何でもないネ……新八、銀ちゃんに言ったらメガネ割るからな!」
キッと睨まれてよくわからないながらも頷いた新八をもう一度睨むと、神楽は乱暴に頬を擦った。

 

恥ずかしい…!

不本意ながら頬を染めたふたりがほぼ同時にそう呟いたことは、幸いにも誰も知らない。

 

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