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久しぶりに小話。
働く土方さんの日々の一コマ。極々自然に銀土。



吐き出した煙草の煙の先行きを目で追いながら安い喧嘩を眺めた。
こういう揉め事は領域の外だ。

野次馬が集まり出し、ちょろちょろと駆け寄ろうとしている子どもを呼び止めた。
「おい、そっちは危ないぞ」
びくりと静止し、怯えたように見上げる目に仕方なく笑いかけてみる。
さらに硬直した少女は暫く瞬きをせずこちらを見つめ、走り去る。
頬が赤く染まっていたのは恐怖だろうか。
幼児なら恐怖と興奮を一揃えにしてしまうことだってあるはずだ。

沖田がそうだった。
自分もそうだ。

どうあっても あの男のようにはなれそうにない。
口の端で笑いのようなものを浮かべてから、迎えの車に乗り込む。
馬鹿げた喧嘩は続いている。
「…いかがされますか」
伺う部下は最近入ったばかりの若い男だが、穏やかな口調と似合わない度胸が気に入っている。
闇雲に威嚇してまわるだけが能じゃない。

「屯所に」

頷く部下はそれ以上話しかけてこない。

頭の中で組み立てているのは新型の兵器。
実戦に使用するには訓練が必要だ。
扱いなれた人間がいるのは知っているが傭兵ほど疑わしいものもないと思っている。
金で動く人間は確かに扱いやすい。判りやすいのだ。
金の切れ目が縁の切れ目、という言葉と表裏一体の「判りやすさ」だが。
戦線が混乱すれば、頼れるのは精神的な繋がりや信念のある関係のみ。
事務の効率化とあわせて、戦費の面でもアウトソーシングを、と煩く言われたが、
リベートで骨抜きにされたあげく、子飼いの馬鹿をよこされてはたまらない。
大体、血煙と机の上の御飯事を一緒にする馬鹿がどこにいるのか。

自前の兵士がいるのに、どうして無駄な金を使うのでしょうか?
痛い所を突いてやったから、当たりがキツクなるだろう。

思考の切れ間、2本目の煙草に火をつけた所で見計らったように話しかけられる。
「…山崎さんから、伝言を申し付かっています」
「山崎が?」
「本日夜の会議は延期に、だそうです」
「……わかった」

掴んだか。
知れず笑いがこみ上げる。

可愛い狗を撫でてやらなければ。


吸い込んだ煙を味わっていると、振動が伝わる。
片手で震える携帯を取り出せば、見慣れた番号の羅列。
あえて、名前は入れていない。
どういう顔をして入れればいいのかわからなかったからだ。
今も判らない。


鳴り響く振動音にも、部下は何も言わない。
こういうところが気に入っている。
出なくていいんですか、と聞く人間は次には別の仕事をさせる。
上司が遠慮をしていると思うのならば、なめられたものだ。

鳴り響いた携帯が死んだ。
だが、有能な狗の努力で、殺した通話を折り返す選択肢が生まれた。

夜の会議の相手は喰えない爺だ。
無理難題を吹っ掛ける古狸。
忌々しい爺に笑顔で付き合う馬鹿馬鹿しい茶番。
が、延期してしまえるのならば。
相手の心証を気にかける必要がないということだ。
近いうちに豪奢な椅子から転げ落ちていくだろう。

なら、夜には電話の主に逢いに行ける。

銀色の髪と、齎される指先の熱の記憶にたまらなくなって、
唇を綻ばせた。


 

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