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山+土小話。
ほんとうにささいな日常。
いらしてくださる皆様への残暑見舞い代わりです。
山崎の四季は土方さんと推移するイメージ。





お茶にしませんか、と告げられて初めて、土方は書類に落としていた目を山崎に向けた。
非番だというのに、格好だけはラフな着流し姿だが、していることと張り詰めた糸は同じ。
「あぁ、もうそんな時間か…」
隊士たちの大半は驚くが、土方はそこまで根を詰める男ではない。
他者より自分に対して圧倒的に厳しい男ではあるが、
能率の問題を考えれば、休息を挟むことはやぶさかではないのだろう。
山崎は勿論上司の合理的性質を理解しきっている。

すっと、盆の上に置かれた皿の上の和菓子に、土方の眼が細められた。
皿の色を映しこむような透き通った寒天の中で、小さな餡の金魚が浮いていかにも涼しげだ。
「錦玉って、有名な京菓子ですけど、中身も凝ってきてるし、最近はどこでも手に入るようになって来ましたね」
そういうと静かに、土方の為に緑茶を用意する。
また少し痩せたな、と思いながら。
冷えたものを飲ませすぎないように、という配慮で、残暑とはいえまだ暑い時期にしては温かいもの。
土方が特に異を唱えることは無い。
添えられた竹のカトラリーで、壊さないようにだろう、
土方にしては静かにそっと切り分け、口に含む。
ぼりん、と僅かな歯ごたえの後、ほのかな甘みが広がる。
ほんの少し、土方の顔が柔らかくなったのが空気の揺れで伝わる。
「どうです?」
「ん…悪くねェな」
「冷やすと甘みが抑えられるんだそうです。副長、あまり甘いものが得意じゃないですよね」
「ん……」
じっと見つめたまま、おそらくは餡の金魚を崩してしまうことを何だか可哀想に思っているのだろう、
上の空の土方に少し笑った男は
「じゃあ、食欲が無い時とか、これに野菜を入れたものを召し上がってくださいね」
そう言うと、静かにその様を見つめる。
出入りの女に教わった、ジュレに近いだろうか。
甘さを抑えた錦玉に、鮮やかな夏野菜を入れたものを試験的に作ってみたが、評判は上々だった。
あれなら、この人にも食べさせられるだろう。
食欲の無い土方に、どうやって栄養をとらせるか苦心していたから。
「あぁ…そうする」
静かに返答があってホッとする。

中身は金魚が有名だが、餡の花か何かの方がよかったかな、と山崎は考える。
生き物の形をしたものを壊してしまうことが、そういえばこのひとは好きではなかったのだ。
生き物を壊してばかりいては、心のほうが壊れてしまうと、主の身体は知っているのだろうか。
自分で作るときは、もっと無機質なものだけを入れようと決めて。

ああ、また、夏が終わる。
そう思って山崎は、美しい横顔を見つめた。

風が吹いてりーん、と風鈴が音を立てた。


 



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